ちょっと待って!そのストレッチ、やらないほうがいいですよ
ストレッチ、と言ったらこの写真のポーズを思い起こす人が多いのではないでしょうか。
これは、菱形筋という筋肉のストレッチです。菱形筋は図のとおり、簡単に言うと背骨と肩甲骨の間に位置していて(正確な筋肉の位置は図に書き込んであります)、その主な働きの一つに、肩甲骨を脊柱の方へ引き寄せる(肩甲骨の内転)、という機能があります。図の菱形筋が縮めば肩甲骨と背骨が近づきますね。逆に、菱形筋をストレッチするということは、肩甲骨を脊柱から引き離す、ということです。菱形筋が短くなっている場合には、ストレッチするとよいでしょう。でも、多くの人の菱形筋は短くなってなどいないのです。むしろ、長くなっているのですよ。
肩甲骨の理想の位置は、下角が耳の延長線上から指2本分外側
肩甲骨の下角とは、一番下の角のことです。自分の背中はなかなか見えづらいので、機会があったらどなたかに見てもらってください。指2本よりもっと外側に下角があると思います。菱形筋が本来の長さより長くなって肩甲骨を引き寄せる力が弱まっているのです(同時に、拮抗筋である小胸筋や前鋸筋が短くなって肩甲骨を前に引っ張っています)。
現代人の生活を考えれば、菱形筋が伸びてしまうのは当然とも言えます。だって、料理も掃除などの家事にしろ、デスクワークであろうとなかろうと仕事にしろ、お医者さんも大工さんも整体師も、何かの作業はだいたい体の前で行うんですもの。腕がいつも体の前にあれば、肩も前に出てきてしまいますよね。それなのに、菱形筋をさらに伸ばせば、肩甲骨を脊柱に引き寄せる力がさらに弱まり、肩はもっと前に出てきてしまいます。
長時間のパソコン操作で、「あ~背中が痛~い」なんて言って、このストレッチをやってはダメ絶対!背中の筋肉が伸ばされて張りを感じて痛いのです。もっと伸ばしたら逆効果ですよ!そんな私も、かつては知らずにやってましたけど(^_^;)
じゃあ、なんでこのストレッチをみんなやるんだろう??
謎。正直なところ、なぜ菱形筋伸ばしがこんなにポピュラーなのか、よく分かりません。どうせなら、ほとんどの人が縮こまっている上腕二頭筋のストレッチがこれくらい広まればよかったのに。ただ、私はこんな推理をしています。皆さんがこのストレッチを初めて知ったのは、子供のころ、水泳の前の「準備運動」として、だったのではないかと思うのです。
水泳は、クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、どれを取っても水を掻く際に肩甲骨の内転(肩甲骨を脊柱の方に引き寄せる動き)が生じます。思いっきり、菱形筋を縮ませるのです。そういえば、水泳選手は菱形筋が発達して肩甲骨をもりっと押し上げていますよね。それに、飛び込み台の上で水泳選手がこのストレッチをしている光景をよく目します。
私たちは、水泳のときに効果的なストレッチだということを忘れて、ストレッチのポーズだけなんとなく覚えてしまっていたのではないでしょうか。どうですか、この名推理。
やみくもに伸ばしては逆効果なことも。まずは自分の体を知ろう
菱形筋のストレッチ、水泳でなくとも効果的な場合はあります。例えば柔道の相手を引き付ける際の動きは、肩甲骨をぐっと引き寄せます。日常の姿勢でも、普段から胸を張り出すような姿勢をしている人などは効果的です。こういう姿勢、「良い姿勢」と思われがちですが、そうでもありません。立ち姿勢については、また改めて。
ストレッチインストラクター。13年間のデスクワークの後、ストレッチと体幹運動で重い冷え性と生理痛を克服。デスクワーカー向けのストレッチレッスンをしています。
主婦の友社のウェブメディア「OTONASALONE(オトナサローネ)」でヘルスケアライターとしても執筆中。