セックス・アンド・ザ・シティとハイヒールと私
先日、友人の結婚パーティーに呼ばれたので、久しぶりに9cmヒールの靴を履いた。
この頃もっぱらスニーカーかペッタンコ靴だったから、なんだかぎこちない感じがしたけれど、やっぱりハイヒールはいい。気持ちがシャンとする。
そういえば若い頃、セックス・アンド・ザ・シティでキャリーが綴ったモノローグが好きだった。
「シングルウーマンの道は平坦ではない。だから歩くのが楽しくなる特別な靴が必要なのだ」
一悶着あってやっと手に入れた(厳密には取り戻した)大好きなマノロだかジミーチュウだかのヒールの高い靴で、ニューヨークの街並みをスキップするみたいに歩くキャリーが印象的だった。
あの頃まだ若かったから、シングルだろうとダブルだろうと(ダブル?)道は平坦でないことなどあまりよく分かりもせずに、純粋にその言葉に感激していたのだが、いまとなってはちょっと違う。
平坦でない道を歩くのなら、必要なのはもっと歩きやすい靴なのでは?なんて野暮な考えが頭をもたげるのである。
年をとるとは野暮になることなのかも。
思考が野暮になるから、なんだか見た感じも野暮ったくなるのか。
思い返せば、携帯の電波が著しく悪いのにみんなが待ち合わせをする横浜のシャル下で、何度も無駄にi-mode接続を試みてたあの頃、ヒールのない靴なんて持っていなかった。
楽しさとは非合理である。
そうそう、いつのまにかシャルなくなっててビビりましたよ。あ、シャルじゃなくてシアルか。
で、そんなあの頃は、それぞれハイキャリアでイケてるファッションを纏って歩く4人の姿がとっても素敵に見えたっけ。
でも今となっては、こんな人たちと身近に付き合ってたらさぞかし疲れるだろうとも思ってしまう。
「楽しい」より「楽」な靴を履きはじめる
いつから楽しいより楽を優先するようになったのか。
楽しいしかなかったあの頃は、楽して出歩くメリットなんて考えになかった。思いつきもしなかった。
アホみたいに人の多いディズニーで、もうほとんど列に並びに行っただけのアホの一員を謳歌したあのクリスマスも、ヒールの高いロングブーツだった。
楽に目覚めた私たちを、若い娘たちは理解できない。
だから、野暮ったい靴の上でストッキング越しにスネ毛が見えているようでは、たとえその人生がどんなにうまくいっていたとしても、若い女性のリスペクトを得られないのである。
もしもあなたが会社で重要な役割につき、若い女性たちを束ねる立場にあるならば、特に注意しなければならない。なんだか英文和訳した日本語みたいだ。
ああ、こんなふうにはなりたくない。私もこうなっちゃうのかな。なんて、うら若き乙女たちに年を取ることへの失望を与えてはいけない。
たまにハイヒールを履いて、年を取るって素敵なことよ、楽しいも楽も知ってるの、とか訳の分からないことを言ってみれば、「えーさすが!なんか深い!」とか言ってくれるに違いない。
ハイヒールにはきっと、それくらいの威力はある。
まぁ、年を取るのは素敵、なんて強がりだけど。
朝まで飲んでもすき家でチーズ牛丼をかきこめたあのパワーも、その帰り道に出勤途上のパパに会っちゃって「いってらっしゃ〜い」なんて言えたあの能天気さも、今となっちゃ羨ましくてしょうがないけど。
歩くのをちょっとだけ楽しくする靴が、「時々」必要
ハイヒールなんて、姿勢も悪くなるし筋肉の凝り固まりはできるし脚はパンパンになるけどさ。履き慣れてないと足の皮とかズル剥けるけどさ。体に良いか悪いかって言ったら悪いんだけどさ。
でも、いつだって楽しいのは、ちょっとだけ悪いこと。この年で本当に悪いことなんてしたら洒落にならないから、ちょっとだけ悪いことでお洒落したらいいわけだ。
なんてうまいこと言って週に一度くらいは痛い思いをしてでも楽しくなれる日を作ってみたい。
あの頃の自分に失望されないように。
さて、先のキャリーのモノローグは日本語字幕用に訳されたものだけれど、実は英語だと少し違う。
“It’s really hard to walk in a single woman’s shoes. That’s why we need really special ones now and then to make the walk a little more fun.”
「now and then」そう、時々でいい。楽しむつもりが疲れてしまっては元も子もないのだから。毎日がSATCでは、たぶん死にたくなる。
しかし、恐らくキャリーの言う「時々」ってのは、時々ハイヒールを履くんじゃなくて、時々マノロみたいなスペシャルな靴を履くって意味なんだろうけど。
持ってないっス、そんな靴。
いや、ちょっとだけテンションが上がって、楽しくなれればそれでよい。
あの頃は能天気で空っぽで、身軽だったからハイヒールでも疲れなかったのに、いつのまにかなんだか色々背負ったり溜め込んだりしているうちに、楽な靴しか履けなくなった。時々でいいから空っぽで楽しいだけのあの時に戻りたい。
身軽さに憧れて、フランス人は10着しか服を持たないとかいう説教に惑わされて、それでもやっぱり何にも捨てられなくて、今日も歩くのが楽な靴を履いてしまう。
あぁだから、時々、ちょっとだけ歩くのが楽しくなる特別な靴が必要なんすね。
いや実は、ハイヒール履いたらちゃんとストレッチしましょうね、こうやるといいですよ、というのをメインで書こうと思ってたんだけど、なんとこんな無駄話でもうお腹いっぱい。
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ストレッチインストラクター。13年間のデスクワークの後、ストレッチと体幹運動で重い冷え性と生理痛を克服。デスクワーカー向けのストレッチレッスンをしています。
主婦の友社のウェブメディア「OTONASALONE(オトナサローネ)」でヘルスケアライターとしても執筆中。