ミゾオチで歩け。ミゾオチで歩け。大事なことは二回言う。
日本には四季があるとかいうけれど、その言い方はちょっとずるい。
だってほとんど寒いじゃないか。寒い時期が長すぎる。今年は冬の始まりが遅かったけど、11月から4月の始まりくらいまではなんだかんだ言って寒い。
一月は行った、二月は逃げた、三月は去った、なんて嘘ばっかりだ。やれるもんならさっさとやってくれ。寒い季節は憂鬱で暗く、長い。
きっと、みんなだって寒いのは嫌いなんだ。だから、町行く人々は誰もかれも足早に、いそいそと歩いている。早く暖かいどこかへ行きたいのだろう。
先日、仕事を終えた人たちが家路へと急ぐ辻堂駅のホームで、冬のいそいそ歩きをする人たちに違和感を覚えた。
そろいもそろって、「急いでいるのに、前に進もうとしていない」、そんな歩き方をしていた。
急いでいるのに後ろ体重でブレーキをかける人たち
なぜそう見えたかというと、みんな股下から脚を前に出して、その脚でもって一生懸命に前に進もうとしているからである。
それの何がおかしいのかっていうと。
「歩く」というのは本来、上体が先に前に出て、それによって重心が前に動くのを支える形で片脚が前に出る、という重心移動の動作である。
しかし、上体はどちらかというと後ろ重心で、脚だけ前へ前へと出して歩く、というのは、「前進する」という行為に矛盾を生じさせている。
ちょっと想像してほしい。頭の中で、全速力で走ってください。そして、止まってください。止まろうとして減速したとき、あなたの体はどうなっていましたか?
それまで前屈みになっていた上体を後ろに反らせてお腹を突出す形になって、ブレーキをかけたはずである。
上体の重心を前に移動させずに脚だけ前に出して歩く、というのは、これと同じことで、ブレーキをかけつつ前進していることになる。
急いでいるんじゃないの?なんでそんな歩き方?
自分はそんな歩き方はしていない、という方は、ぜひ試してほしいことがある。
壁を背にして立つ。そして、壁の方へ少しずつ後ろへ下がっていく。一番初めに壁に接着する体の部位が、背中だった人は、間違いなくそういう歩き方をしている。
本当は、背中とお尻が同時に壁に着くのがちょうどいい。
かく言う私も、去年の今頃はそんな歩き方をしていたし、壁にはいの一番に背中が着いていた。
脚はミゾオチから始まっている
普段から、そんなふうに上体は後ろ重心で、お腹は前に突き出るような姿勢で立っている人は、骨盤が後傾してヒップはぺちゃんこ、インナーマッスルを使えず基礎代謝が悪く、体幹も弱い。
こういう人は、背屈は得意でけっこう楽々と後ろに倒れることができるし、なんならブリッジだってできる。だからといって体が柔軟なわけではない。
前屈はめっぽうできない。
体を前に倒す、という動作は、股関節を「く」の字に曲げることである。歩くときに上体を前に出して重心を移動させるときも、股関節を「く」の字に曲げる必要がある。
ところが、後ろ体重でお腹を突き出す姿勢は、言ってみれば「逆くの字」をキープしている状態であって、いつもその形でいるせいで、本当のくの字になろうとしてもなれないのである。
股関節を「く」の字に曲げるとき、いくつかの筋肉が働くが、最も働かせるべき筋肉は腸腰筋である。
腸腰筋は、ミゾオチのあたりから始まって大腿骨まで繋がっている大きな筋肉である。体幹に近い場所にあるインナーマッスルで、人間が二足で立てるのはこの筋肉が発達しているおかげ。
ちょっとこれだけは覚えておいていただきたい。
「脚はミゾオチから始まっている」
このフレーズ、後で使うから念のため、もう一度。
「脚はミゾオチから始まっている」
股関節を「く」の字に曲げることが苦手になっている人は、この腸腰筋をうまく使えていない。
うまく使えない理由は、いつも「逆くの字」の姿勢でいるせいで腸腰筋は鍛えられるどころか、むしろびろんびろんに引き伸ばされ、激ショボになってしまっているからである。
体幹に近いインナーマッスルが激ショボ。で、いいはずがない。
後ろ体重でブレーキをかけながら歩いてしまう人たちは、たぶん歩くのが嫌いだと思う。
長時間歩くと、体のどこかが痛くなったりするはずだ。
使うべき筋肉を使わずにほかの筋肉で補い、さらにブレーキをかけられた状態で前に進まなければならないのだから、おかしくなるに決まっている。
私も、都内での移動なら徒歩7分以上はタクシーに乗るものだと思っていたし。歩くのなんか大嫌いだった。
ブレーキをかけつつ急いで歩くというのは、歩くのが嫌いな人の気持ちをよく表している。歩くという行為を早く終わらせたい一方で、いま歩いていることすら嫌だ、という気持ちの同居を、動作にまで反映させているのだからたいしたものだ。
とはいえ、正しく重心移動をさせて歩いたほうが、体を壊さずに済む。正しく重心移動させて歩く。つまり、腸腰筋を使って歩くには、「脚はミゾオチから生えている」と思って歩くとよい。
そうすると、自然に上体が前に出るようになる。
股下からが脚だと思って歩くと、先述のとおりブレーキ歩きになるので気をつけていただきたい。
脚はミゾオチから始まっているのだ。
ストレッチインストラクター。13年間のデスクワークの後、ストレッチと体幹運動で重い冷え性と生理痛を克服。デスクワーカー向けのストレッチレッスンをしています。
主婦の友社のウェブメディア「OTONASALONE(オトナサローネ)」でヘルスケアライターとしても執筆中。