ストレッチして筋肉を伸ばすと副交感神経が優位になるのか?
ストレッチをすると筋肉がほぐれて副交感神経が優位になり、リラックス効果がある。というようなことを、よく見聞きします。
体整え倶楽部でストレッチをする目的はリラクゼーションではないので、「へぇ、そんな副産物も」という感じではありますが、イマイチ納得いかないのが、「筋肉が伸びる=副交感神経が優位になる」という図式。
そこで今回は、ストレッチをすると本当に副交感神経が優位になるのか、ということを探ってみたいと思います。
ストレッチをする理由。それは、血行改善に役立つから。
私がストレッチをオススメする理由。それは、同じ姿勢や同じ動作のしすぎによって縮こまって短くなってしまった筋肉の長さを、もとの長さに戻すためです。
縮こまって短くなってしまった方の筋肉も、反対側で引き伸ばされて長くなってしまった筋肉も、血行を阻害します。
短くなってしまった方は伸ばす=ストレッチ、長くなってしまった方は使う=運動、することで元の長さに戻します。
もとの長さに戻っていけば、各関節の可動域は正常になります。可動域が変われば、その人の普段の動作はより筋ポンプが働きやすくなる方に変わります。つまり、血行改善となります。
短くなってしまった筋肉は、いわば使われ過ぎて頑張りすぎた筋肉。長くなってしまった筋肉は、頑張っている短い筋に頼ってサボりまくっている筋肉。で、慢性痛が起こるのは、この長い方(ワガママすぎだろ)。なお、筋肉痛などの急性痛は頑張りすぎの方で生じます。
慢性痛が起きたら、仕方がないので、短い方をほぐしたり伸ばしたりして、長い方の文句を収めます。
でも、そのまま長い方がサボり続けていたら、また短い方が頑張りすぎてしまうので、体整え倶楽部では、ストレッチの後に「長い方もちょっとくらい働けや」ということで、長い方を動かす運動をします。
サボるどころか、寝たまま出勤すらしてこない筋肉もいたりするので、彼らがついつい起きだしてしまうようなオモシロ動きも入れたいところ。こちらは現在バリエーションが少ないので、日々思案中です。
で、どの筋肉も同じくらいの頑張りで体が機能している状態を目指したいわけです。ま、完全にそうなることは難しいでしょうし完全なんて求めても意味がありません。
血行がよくなって体が元気になる、というところまでいければいいのです。それなら難しくありません。わりとすぐに、なんか変わってきたことを実感できます。
こんな感じなので、ストレッチ→リラックス→健康、というアプローチではないのです。私の場合。
交感神経と副交感神経。自律神経は骨格筋と関係あるのか?
まず神経の話から。神経系には、中枢神経系と末梢神経系とがあります。
中枢神経系は、脳と脊髄。で、中枢神経からたくさんの末梢神経が出ていて、末梢の器官と情報の交信をしています。
末梢神経はさらに、意識とのつながりが大きい体性神経と無意識で機能する自律神経に分けられます。
体性神経は、骨格筋を動かす運動神経と皮膚の感覚などを伝える感覚神経。
自律神経は、交感神経と副交感神経です。「自律」と呼ばれるように、自分で勝手に仕事しているので、意識的にコントロールすることはできません。
交感神経と副交感神経の作用を簡単に下の表にまとめました。
交感神経 | 副交感神経 | |
瞳孔 | 開く | 閉じる |
唾液線 | 消化酵素、粘液の分泌が優位(ネバネバ) | 水分の分泌が優位(サラサラ) |
涙腺 | ※不詳 | 涙が増える |
気管の平滑筋 | 弛緩(気管支拡張) | 収縮(気管支収縮) |
心拍数 | 増える | 減る |
血管の平滑筋 | 収縮、弛緩 | ー |
消化管の平滑筋 | 運動低下 | 運動亢進 |
消化管の分泌腺 | 減る | 増える |
膀胱 | 排尿抑制 | 排尿促進 |
皮膚の立毛腺 | 収縮(身の毛が立つ) | ー |
汗腺 | 少量の濃い汗 | 大量の薄い汗 |
交感神経が優位なときとは、獣や何かに出会って「闘わねば!」または「逃げねば!」という戦闘モードを想像すると分かりやすいです。
目を見開き、心臓はバクバク、血はドクドク、呼吸も荒い、用を足している場合ではありませんので胃腸も動かないしオシッコもでません。
反対に、副交感神経が優位なときは、おやすみモード。心臓はゆっくり動き、呼吸も少なくなります。トイレに行くなら安全ないまのうちっていうことで、胃腸も動くしオシッコもでます。
で?
ストレッチと自律神経の関係は?
表中にところどころ、平滑「筋」というのが出てきますが、これらはストレッチで伸ばせる筋肉ではありません。
筋肉には骨格筋と平滑筋があり、前述のとおり、骨格筋を支配するのは運動神経。骨格筋は運動神経によって自分の意思で動かせます。ストレッチで伸ばすのは骨格筋です。
対して、平滑筋は不随意筋とも呼ばれ、自律神経によって支配され、自分の意思と関係なく機能します。
心臓とか、胃腸とか血管の筋肉の動きを、自分の意思で止めたり動かしたりはできないのです。
こうして考えると、骨格筋を伸ばすことと副交感神経が優位になることが、どうしても繋がらないのであります。
「リラックス効果がある」という思い込みが鍵
なんとなく、交感神経は悪で副交感神経は善であるかのような言われ方をすることがありますが、そんなことはありません。
交感神経は「やる気スイッチ」でもあり、なにか頑張る時にはこれが不可欠です。高いパフォーマンスを出力するには、緊張することも必要です。
副交感神経が優位になり過ぎると、無気力でなにをする気も起きません。
さてここで、ストレッチは頑張りすぎている筋肉を伸ばしてあげることだというのを思い出してください。
現実に体の中でそんなことが起きているわけではありませんが、交感神経的な働きで頑張りすぎて短くなってしまった筋を、伸ばしていたわってあげることで、「そんなに私ばっかり頑張らなくてもいいのね」と感じた筋肉がホッとして、交感神経的な作用が弱まり、副交感神経的な作用が生じるのかもしれません。
妄想ですが。
でも、そんなふうに、「いま副交感神経が優位になってる。私リラックスしてる」と思い込むことは、リラックスしたい人にとって効果があると思います。
仮に、ストレッチはリラックス効果があるなんて聞いたこともない子供に、黙々とストレッチをやらせたら、超絶つまらなくてイライラが溜まるかもしれません。
ちなみに、私がストレッチ教室のときにストレッチするときは、頭をフル回転させておりますので、交感神経がバンバン働いております。
筋肉に意識がいっていない分、筋肉を伸ばす効果も減ってしまいますが、自分の血行改善のためにやっているわけではありませんから、そこは仕方ない。
でもほら、やっぱり、筋肉を伸ばすこと=副交感神経が優位になる、ではないと思うのですよ。
ストレッチでリラックス効果を狙うなら、「私はいまリラックスしている」と思うことこそが、大事だと思うのです。ストレッチに限らず、リラックスが目的ならなんでも。
そう考えると、「筋肉を伸ばすことと副交感神経ってあんまり関係ないんじゃないか」などという記事を投稿すること自体、実に無粋に思えてきますけども。
結論を申しますと、ストレッチは、筋肉が伸びるからではなく、それを気持ちいいと感じるから、リラックスできる。ただそれだけ。はい、異論は認めます。
ストレッチは気持ちいいのが大事
ストレッチをするうえで重要なことは、痛いほど伸ばしすぎないことです。
痛気持ちいいくらいで止める。これはとても大事です。
眉間にしわを寄せて痛がりながら伸ばしても、力が入ってしまうばかりで伸びるものも伸びないのです。
もちろん、リラックスも期待できないですね。
そしてもう一つ、ストレッチは「呼吸」も大事です。
呼吸はコントロールできないはずの自律神経をコントロールすることと深い関わりがあります。
けど、今日はここまで。
※呼吸に関する記事を掲載しました。
ストレッチインストラクター。13年間のデスクワークの後、ストレッチと体幹運動で重い冷え性と生理痛を克服。デスクワーカー向けのストレッチレッスンをしています。
主婦の友社のウェブメディア「OTONASALONE(オトナサローネ)」でヘルスケアライターとしても執筆中。